秘密のダンスパーティー

さて、どっぷり日も暮れていい時間になったので俺たちはダンス

パーティー・・・というか簡易ディスコみたいなものを探し出た。

と言ってもこれまたその辺の人に聞けばすぐわかるんだがどうも歩いて

いける距離にはなくやはり車で結構行ったところにあるらしい。

みんなで車に乗って移動。距離にして10キロぐらいだったろうか、

この町のはずれのこれまた小さな集落というか部落というようなところに、

1辺が20m程度の木の板でできた倉庫があって、そこからガンガン

音楽が聞こえてきている。木の板の隙間というかボロボロなので隙間

だらけなのだが、そこから光がきらきら漏れてきていてその建物自体が

まるでミラーボールみたいだった。どうやらもともと牛小屋高馬小屋

だったところのようだ。小屋の中も周りも舗装なんかされてない。

若者が結構たくさんいたが、それでも「ぎっちり」という程ではなく

「たくさんいる」というレベル。その辺に車を停めると人相の悪い奴が

寄ってきてエントリーフィーというか入場料というかを徴収する。

と言っても3ドルぐらいだったかな?小屋の中は安いライブハウスのように

むきDJらしき人がいて、むき出しのアンプやキャビネット、とってつけた

ようなミラーボールがあった。少し驚いたというかなんというか、小学校の

学芸会や誕生日会によくあるようなきらきらしたモールや折り紙チェーン

みたいなものまで飾られていたことだ。風船もついている。それと小さな

カウンターの裏でビールやスナックなどを売っている。因みに一番安い酒は

カシャーサだ。かかっている音楽はありがたいことに洋楽で、まさに俺が

ベストヒットUSAなどで耳にしていたやつ。なんとなくここにいる奴らは

町でも行けているというかちょっと札付き系のやつらだろう。おそらく

まともな家の子はこんなところに来るのを許されないだろうし、まじめな子

にはちょっと怖い雰囲気かもしれない。普通だったら俺もちょっとピリピリ

したものを感じていたかもしれないけれど、俺はキラキラモールや折り紙

チェーンの飾りつけでちょっとなめているから全く何も感じない。

絡まれてもせいぜいバックトゥーザフューチャーに出てくる「ビフ」って

レベルで、そのころはまだ放映されてなかったけどイメージで言うと

シティーオブゴッドに出てくる「Ze pequeno(リトルゼ)」とか「Cenoura

(セヌーラ)」みたいなやつはいないだろうとタカをくくっていた。

実際腕にその場の主みたいな雰囲気で腕に自信がありそうなやつもいたけれど、

こっちをちらちら見るだけで攻撃的な雰囲気は伝わってこない。逆に俺が

真ん中のほうまで進んでいくとみんながぎょっとしてこっちを見る。

おそらく東洋人など見たことないのだろう。どうやって踊るかもわからない

からみんなの真似をしていると一人の男が近づいてきて「voce e chines?

(お前は中国人?)」と聞いてきた。「nao
eu sou japones,nao(日本人

だよ!) se confunda com chines!!!(中国人なんかと間違えるんじゃ

ねぇよ!)」と返した。そいつはすごすごどこかに行ったかと思ったら

しばらくして今度は「Japao! Oi Japao!(おい日本人)」問う声が

聞こえてきた。見ると主のビフがこちらを見て手招きしている。

思わず「voce venha aqui!(お前がこっち来い!)」と言いそうになったが

あまり知らないところで事を荒立てても仕方がない。

そもそもこっちは喧嘩をしに来たわけじゃなくて楽しみに来たんだ。

とりあえずそっちに行くとそいつは「vi Japoneses pela primeira vez

(日本人初めて見たよ)olhos muit puxard(本当に目が吊り上がってるな)」

といった後「Existe uma SAMURAI no Japao?(日本には侍がいるのか?)」

というので「todos os Brasileiros tem ciumes?(ブラジル人は全員槍を

持ってんのか?)」と言い返すと「isso mesmo(そうだよなぁ)e no que

voce veio?
(で何しに来たの?)と聞くので「para accampamento(キャンプ

しに)」などと話しているといきなりウスチアが来てちょっと来てくれと

いう。何かただ事じゃないと思ってついてくと、建物の外に出て人影が

少ないところにくると「nao se de bem com esses caras!(あんな奴らと

付き合っちゃだめだよ!)」だって。俺は別にそんなに悪い奴に思えなかった

けど、やっぱり地域のワルとは関わらないのが鉄則なんだろうな。一通り

そこでいろいろと物色したけれど、他の連中曰く「地元のやつらばっかりで

俺らよそもものはあんまり楽しめない」という事で帰ろうという事になった。

全員普通に飲酒運転だがおそらくこの辺はお巡りさんも飲酒運転の常習犯

だろう。ふと思ったんだけど、飲酒運転に罰則ってあるんだろうか?

だって飲酒運転しない人は酒を飲まない(飲めない)人だけだ。

まぁどっちでもいいんだけどね。キャンプ場に帰ると彼女と一緒に留守番を

していたロイロとパイがビールを飲みながら肉を焼けた部分から削いでいる。

テントは一つ一つが大きいのでとりあえず3張りで足りはするんだろうけど、

女子2人が一つ使うことになったので残り9人でテント2張り。俺は「usar uma

barraca para dois casais!(
ロイロとパイのカップルで一つのテントを使って

くれよ!)」と言ったんだけど、女子たちに「nao gusto!!(いやよ!!)」と

言われてしまった。とりあえずみんなひとまずはディスコもどきで遊んで

きたし、酒も回ってきたのでなんとなくさらにビールなどをすすりながら肉を

食べ、くだらないおしゃべりなどを楽しむ。気が付くとビールもあと1ケース半

ぐらいになっているから、やはり相当飲んでいるんだろうな。パンは既に

無くなってしまっているけれど、俺は腸詰やルシアノが焼いた肉のあまりの

うまさに驚愕しつつ、酔いも手伝って自動的に肉を削ぎ、自動的にビールを

流し込む「肉とビール消費器」と化していた。いつの間にか眠ってしまって

いたようで、肌寒さに震え目が覚めた。なんと俺はギャラクシーのトランクに

、足を半分だして入って眠っていた。なんでこうなったのか一応覚えている。

ルシアノの肉に舌鼓を打ちつつだらだらと肉を食いビールを飲んでいたのだが、

気が付くとみんなそれぞれテントに入って寝てしまっていた。俺もテントで

寝ようと中を見ると、むさくるしいブラジル人どもが重なるように眠って

いるので嫌になり、シャバスカのワーゲンバスで寝ようかとそちらに向かって

いる途中、ピメンタのギャラクシーのトランクが開いていてそれがやたらと

広く、「これなら中で寝られるんじゃないの?」と思いつつ中に入ると案外

と広く、足を出していれば十分寝られる。で、そうなった。体を起こすと

ルシアノとロイロがうつろな目をしながら肉を火にかけつつビールを飲んで

いる。俺がトランクから這い出していくとぬるいビールを渡してくれた。

朝っぱらからというか、起き抜けにぬるいビールというのも最高に嫌だが、

実はこの一回で慣れてしまいその後同じシチュエーションになっても全く何も

思わなくなるという恐ろしい後遺症が残ることになる。とにかく俺も

のろのろと車のトランクから這い出し彼らのところに近づく。

よく見るとグリルに串に刺さったまま固くなった肉があったのでそれを

食べようとすると「nao coma isso!(そんなもん食べるなよ!)」と言って

焼き立ての腸詰を串から一本外して渡してくれつつ「nao tem pao(パンは

ないぞ)se voce comprar・・・(お前が買ってきてくれるんだったら・・

・)」と言い出したので、それを言い終わらないうちに「nao!」と言って

差し出された腸詰をかじった。しばらくロイロたちとぼそぼそ喋っていると

みんな次々と起きだしてテントから這い出てきた。女子たち二人も起きて

きたが彼女たちも含めて誰も何も疑わず肉をかじりぬるいビールでのどを

潤しているのが笑えた。帰りはみんなでその時はやっていた歌などを大声で

歌いつつ町まで帰ってきた。で、さっきの「ある事件」だが、ここで「パイ

」と書いている奴の本名もそれまでのあだ名も俺はよく知らない。キャンプ

に行くことになってルシアノたちが連れてきた彼の友達なのだが、本人は

ジェームスディーンに似た色男で彼女もかわいらしい子だった。俺は「男の

キャンプに女連れてくるんじゃねぇよ!」などとひがんでいたのだが、

しばらくしたある夜俺の働くバーに来ていたルシアノとゴルドーがなにやら

大爆笑している。仕事がひと段落したので「por que voce estava rindo?

(なんでさっき笑ってたの)」と聞くと「voce se lembra daquele que foi

amanmar juntos(
一緒にキャンプに行ったあいつ(パイ)を覚えているか)?」

というので「sin」というと「ele realmente tornou um pai!(奴本当に

親父になったぞ)」という。「comeu!comeu!!(食ったんだ、喰ったんだよ!)」

というゴルドーに「o que?(なにを)」と俺。「enquanto nao estamos,

(俺たちがいない間にさ、)na barraca!!(テントでさ!!)」「o que!!!

(
だから何を!!)」。つまりこういうことだ。ロイロとパイとその彼女たちを

キャンプサイトに残し俺たちがディスコに行った際、彼らはテントでよろしく

ていたという事らしい。まぁそれはいいんだけど(俺たちもそうさせてやろうと

思っていたところはあるし)、パイの彼女はその時15歳。俺が憧れたアマンダと

ほぼ同じ年!!ブラジルってのは何歳から結婚できるのか知らないけれど、

その後パイは彼女(マイ:お母さん、とあだ名がついてしまった)と一緒に

暮らすことになった。彼の結婚式の記憶がない。もしかしたらあまりに若すぎる

のでやらなかったのかもしれない。パイ18歳、マイ15歳。俺が日本に帰国した

のち改めてブラジルに行った時、既に子供は赤ちゃんじゃなくて一人前の子供に

なっていたけれど、それよりもパイもマイも迫力があったというか、他の仲間

よりいっぱしの大人の顔になっていてびっくりした。きっと今でも幸せに

暮らしていることだろう。もしかしたら・・・というか絶対にもう孫も

いるんじゃないかと思うんだけどどうだろう?彼らが幸せであることを願うよ