キャンプ場に到着

距離にしてみれば大したことないのだが、たまにでかい穴のある未舗装路を

走っているのと、途中で撃ち殺されそうになったりでなんだかんだと結構な

時間をかけてやっと小さな町についた。いや、町と言っていいのかな?

まだ家が何件あっただけだけど、エストラーダから入ったばかりのところ

だからそんなもんかな?そう思っていると綺麗な眺めの駐車場に到着・・・・

と思っていたのだが、どうやらここが目的地のようだ。どう表現したらよいの

だろう?グリーンベルトがある駐車場と言えばわかりやすいだろうか?

広さは全部で1000坪以上ありそうなんだけど、よく田舎の道路を走って

いるとただっぴろい無料の駐車場みたいなのがあるじゃない。あんな感じ。

グリーンベルトみたいなところにテントを張るらしい。車を停めるところは

パラレレピペド(石畳)。よく見るとシュラスコをやるらしきグリルの

ついたあずまやと、グリーンベルトの部分にところどころにょきにょきと

高さ50pほどのポールが立っており、その先端はライト、横にはコンセント

が付いている

まりその周りにテントを張って、電源は好きなように使いなさいって事だろう。

なんとなくうっそうとした森の中をイメージしていたのでなんだか拍子抜け

しつつ車を降りる。そういえば俺は毛布とナイフしか持ってきていない

けれど、こいつらいったい何を持ってきたんだろう?俺が乗っていた

マグロゥンのピックアップの荷台にはかなりな量のビールのカートンと

クーラーボックスなどが積んであったから「食料車」なのだろう。

ルシアノのコルセロはあまりものが積めなそうだがトランクにはやはり

クーラーボックス。そしてピメンタのギャラクシーのトランクにテント

3張り。早速それらを出して並べていく。


メンバーは俺、ルシアノ、ピメンタ、ロイロとロイロの彼女、マグロゥン、

ゴルドー、パイとパイの彼女、シャバスカ、ウスチアの11人。マグロゥンの

トラックの荷台にビール大瓶8ケース。肉3キロの塊が4個。マングローブの

炭40キロ。ピメンタのギャラクシーにはテントとディレクターチェアみたい

なやつ3つとハンモック、ルシアノの車にはこれまた3キロほどの肉の塊3つと

一つがホットドッグ用のパンほどもありそうな巨大な腸詰ソーセージ。それに

肉を焼くときに使う長くて太い串。あとは個人のバックやら毛布やら。

シャバスカの車が一番荷物を積めそうだが、どういう訳か大したものを積んで

なかったみたい。


・・・・・水は?飲み水はいったいどこにあるの?そう思って「cade agua?

(
水はどこ?)」と誰にともなく声をかけてみると近くにいたルシアノが

nao tenho(ないよ)」とさらっと言いやがる。ない?水がない?そうか、

あのあずまやみたいなところに水道があるってわけだね?そうだよね?

するとルシアノ「nao posso usar agua por la(いや、あそこの水は

つかえねぇよ!)」ですと!!俺「O que voce faz bebidas!(飲み物は

どうするんだよ!!)」ルシアノ「Tem cerveja(ビールがあるじゃん)」

、俺「O que faz quando escova os dentes!!(歯を磨くときはどうすんの?)」

、ルシアノ「pode usa cerveja(ビールでいいじゃん)」、

俺「vai borbulhar!!!(泡立つだろ!!)」、ルシアノ「quand escover dentes,

geralmente borbulhar!(
歯を磨くときは普通泡立つだろ!)」、俺「・・・・

・・・・nossa!!」。俺たちが持ってきた食料は肉20キロ、でっかい腸詰5キロ、

ビール8カートン(既に1ダース以上消費済み)、それにソルグロッソと

呼ばれるシュラスコ用の岩塩3キロ。そのほかはテントと椅子と各自が持って

きたナイフなどのカトラリーと食器、それに毛布、あとは炭か。・・・・・

かっこいいよお前ら。コールマンのストーブやランタン、ユニフレームなどの

食器、コックのついた20リットル入りのポリタンクに入った水。モンベル

とかの、あるいはせめてホームセンターで売っている安い奴でもいいから寝袋

とか・・・そういうの一切眼中にないのね。ってか知らないのかな?食い物が

肉しかないのはいいとして、水がないってのはかなり不安。

でもまぁしょうがない。いざとなったら買いに行けばいいか・・・・とは思う

もののここは町なのか?確かにさっき何件か家は有ったけど、町という感じ

じゃない。大体店があるのかどうかも分からない。ふと時計を見るとまだ

9
時前だ。でもホテルを出てから4時間以上たっている。気づいてみれば腹が

減っているけれど持っているのは肉だけだ…っておい!ルシアノが何気なく

グリルに炭をぶちまけてる。なるほど肉を焼くってわけだな。そうだよね、

食べ物ってそれしかないもんね。ウスチアとゴルドーが「買い出しに行って

くる」と言ってルシアノのコルセロに乗り込んでいる。という事はスーパー

なり雑貨屋なりがあるって事だよな?俺も一緒に連れて行ってもらおうと

思ったのだが、ピメンタがうまくテントを張れず四苦八苦しているのでそっち

を手伝うことにした。それにしてもこのテント、ポールを立ててペグダウン

する三角屋根の懐かしいタイプ。しかもキャンバス地かよ!自衛隊じゃ

ないっての!などと思いながらピメンタと協力してもくもくとテントを立てて

いると、ウスチアとゴルドーが帰ってきて早口でルシアノたちと何か

話している。すると今度はピメンタが自分の車のエンジンをかけてどこかに。

それからしばらくみんなが入れ代わり立ち代わりにどこかに出かけて行ったが

、俺はテントが張り終わったので自分の仕事は終わりとばかりに冷えていない

ビールの栓を開けてのどを潤していた。ルシアノは火をつけた炭の上に肉を

かざし、もう少し低いところに腸詰をかざして調理にいそしんでいる。

胃壁をダイレクトにつかんでくるようななんとも言えないいい香りが漂って

くる。早く食べたくてよだれをたらさんばかりに滴る肉汁を見ていると、

ゴルドーが俺を呼んでいる。近づいてみると「パンを買いたいんだけど

買えないんだ」というようなことを言っている。なんだかよく分からなかった

がどうやらこの町は人口1000人足らずの小さな集落なので、町のパン屋さんは

週末は買いに来る村の人の分しか焼いていないからよそ者の俺たちには売って

くれない。一人一人街の住人のふりをして買いに行ってるんだけどダメだから

お前も行けという事らしい。・・・・・おいおい、こいつらあほなのか?

人口2万人いる俺の町だって東洋人は俺一人しかおらず、町で俺のことを

知らない人はいないほどなんだぞ。こんな小さな町に東洋人がいるはずは

ないし、「この町の人です」ったってすぐウソだってバレルに決まってんだ

ろうが!そう思ったけれど、というか絶対そうに決まっているけれどみんなが

「とにかく行ってみてくれ」というのでゴルドーの運転するルシアノの

コルセロの助手席に乗って店に向かった。到着したそこは店というよりは

普通の民家。よくこんなところにパンを売っていると分かったものだと感心

しつつドアを開けて中に入る。いかにも田舎者の頑固な職人といった風情の

おっさんがぎろりとこちらをにらむ。向こうが何かを言う前に俺の方から

Eu vim esta cidade hoje(俺、今日この町に越してきた).Eu quero

comprar pao(
パンを買いたいんですが)」と言ってみた。するとその親父は

早口で何か問いかけてくる。何を言っているのかよくわからない。確かに俺の

ポルトガル語もつたないのは分かるが、おそらくものすごい訛りなんだと思う。

なんとなく「どこに越してきたんだ」というようなことを言っているのだと

思い、無言で表の方を指さす。男はなおも険しい顔で俺に何か聞いてくる。

だから嫌だったんだ、こんな役。でもみんなやっているんだから仕方がない。

何を言っているのか理解しようと必死になっているとおそらく「De onde?

(どっから来たんだ)」と言っているであろう単語が聞き取れた。俺は無言で

地面を指さしてから「Eu sou Japonese,vem outro lado da terra(僕は

日本人です。地球の反対側から来ました)」とつぶやいた。するとおっさんは

げらげら笑いだし「estupido!! Ho-Ho-Ho-(バカだなお前、わはっは!),

eu conheco todos os moradores desta cidade!(
直訳すると「この町の人は

みんな知っている」となるけれど、「俺がこの町の人間で知らないやつが

いると思ってんのか!」みたいな感じ)」と言われ「vou vender pao,entao

volte a noite(
売ってやるから後でもう一回来なさい)」といってくれた。

外に出てゴルドーに「ele vender(売ってくれるって)」というとものすごく

びっくりしていた。キャンプ地に戻ってゴルドーが何かみんなに伝えると

「お前凄いな」とはやし立てられた。ルシアノとピメンタとマグロゥンが

pensei que absolutamente imposivel!!(ぜってームリだと思ってた

のに!)」と言いやがった。じゃぁ行かせんなよと思ったのはもちろんだが、

かれらが本気で言っているようだったので本当に買えるとは思っていなかった

のだろう。なんだかちょっと自信が付いたような気がした。とりあえずパンは

焼いてくれることになったのだけど、やはり村の人の分は売れないという

事でとりあえずフランスパンのようなやつを1本だけ分けてくれたので、

それを等分に切ってみんなで分けた。俺は腹が減っていたのでそのまま

かじりつこうかと思ったがロイロに「ちょっと待て」と制された。

なんだよと思っているとルシアノがちょうどいい具合に焼けた腸詰を火から

おろしてきたのでそいつをパンにのせて食べた。うまい。信じられないぐらい

うまい。これは本当の腸詰なので読んで字のごとくひき肉を腸に詰めたもの

だから最初はぶよぶよしているが、こいつを火にかけ焼き上げていくと

しっかりと固くなる。途中ナイフでついて穴をあけ中から噴き出た油と

肉汁で外側を揚げるように焼き上げていく。その肉汁がパンに沁み込み本当に

信じられないぐらいうまい。パンは一人にひと切れしか分け与えられなかった

が腸詰はまだまだある。全然冷えてないビールを瓶から直接飲みながら、

でっかい腸詰一本を串からもぎ取ってきて自分のナイフで小さく切ってつまむ。

最高だ!先に腸詰は焼けたけれど肉はまだまだ時間がかかるらしい。

どうやら近くに川があるとかで、みんなはそこに泳ぎに行くといっている。

俺も行こうかと思ったのだがなんとなくめんどくさかったので「eu tomar

cerveja
(俺はビール飲んでるよ)」と言ってそこに残り、ルシアノの手伝い

をすることにした。とはいえみんなが行ってしまうとやることはない。

ルシアノも肉を焦がさないように見張っているだけなので、二人で何を話す

ともなく遠くを見ながらぬるいビールを飲み続けた。