シチズンハイラインという腕時計

先日懇意にしていただいている社長さんがセイコーの珍しい時計をしていたので

「ずいぶん珍しい時計されてますね」というと、「貰ったんだよ」とのお答え。

至ってシンプルな金張りの自動巻時計なんですが、今の大量生産の安物時計とは

ちょっと違う「大切にされるために生まれてきた時計」という感じの出で立ち。

話に聞くと、知り合いの眼鏡屋さんが店をたたむとかで、それじゃぁと在庫で残って

いた18金の高価なめがねを購入したらしい。

そうしたらお礼に「好きなものを持って行ってくれ」と同じく在庫で残っていた腕時計

を、段ボール箱に入れてごっそり持ってきたんですって。

いらないとお断りしたらしいが、「どうせ処分しちゃうんだから」と、半ば強引に

押しつけられる格好で、「それでは」といくつか貰ってきたうちの一本とのこと。

さっきも書いたけど、決して高級品というわけではないのだろうけれど、それでも

当時の一般的なサラリーマンが「一生使おう」と頑張って購入したであろう

その時計。何ともいえないアジがあるんですよね。

中古などでは1万円そこそこで売っているのかも知れませんが、「新品」という

所と、時計がまだ簡単に買われ、捨てられることがなかっただろうその時代に

思いを馳せ、ノスタルジーに浸りつつ「やっぱりこの時代のものはいいですねぇ」

等といっていると「まだあるかも知れないから聞いてやるよ」とすぐにガラケーを

とりだし電話を入れてくれました。

もし残っていたら見せて貰って、気に入ったのがあったら売って貰おう。

当時の値段が付いたままだから、その値段で売ってくれるかな?いや、もしかして

格安で売ってくれうるかも?或いはビンテージのデッドストック新品だからと

プレミア価格になったらイヤだなぁなあ等と考えつつ待っていると。

電話を切った社長から思いも寄らない台詞が。

「知り合いが来るたびに欲しいのがあったら持って行けと配り、残った物はなんと

捨ててしまった、と。」

捨てた?捨てるってどういう事?

呆然とする僕に社長さん「あんなにいっぱいあったからまだあると思っていたけど

期待させちゃって悪いなぁ。これ(セイコー)は俺が使ってないと悪いから、こっち

(シチズンハイライン)あげるよ」と。

「悪いからいいです」「いや、俺だってどうせ使わないんだから」の押し問答の

末、ならば僕はそれを戴いて、社長のセイコーも一緒にオーバーホールします。

と言うことで決着し、ハイラインが僕のものとなりました。

この時計、パティックフィリップのカラトラバに似ています。

至ってシンプルな三針の腕時計。何ともいえない雰囲気があります。

裏面には「パラウォーター」の表示があり、調べてみると当時「完全防水」と言われ

この時計をあえてつけて海水浴をするのが流行ったとか。

もちろん今はそんな防水性期待できませんが、昭和の半ばの活気を感じます。