TZR250(3MA)

先日友人が所有するTZR250に乗る機会がありました。

地方に住む友人で、出張で彼の家の近くのホテルに泊まっている旨メールしておいたら

「確かお前、バイク好きだったと思ってさ」ということで、愛車を見せに来てくれたという訳

です。その友人は「20年ほど前S(共通の友人)が捨てるというので3万円で引き取って

自分でこつこつ直していた」とのこと。新車とまでは行かないまでも、よく手入れされて

ぴっかぴかのTZRは今のバイクには全くないかっこよさと迫力がありました。

「ちょっと乗ってみろよ」というのでお言葉に甘えてヘルメットとグローブを借り、いざ。

近くに峠があるからそこに行けとの指示。但し「絶対に転ぶなよ!!」と厳命されました。

当然ですね。

エンジンかけるためキックを踏みおろすと、案外あっけなくエンジンがかかりました。

普段ハーレーなどのエンジンをかけている僕にしてみると「ピストン動いているの?」

と思うほどキックが軽い。110のカブと変わらないぐらいじゃないかな?

アイドリングは安定せず、放っておくとストールしてしまうので若干レーシングしつつ

クラッチを繋ぎ走り始めます。

最初エンストしそうになりましたが、2000回転でつなぐなどこの頃の2ストレーサーに

してみれば「お前おかしいんじゃねぇのか?」って位アホなことで、最低4000ぐらい

まわしてやらないとさすがに・・・・。最近の乗りやすさ(中低速)を重視したバイクに

乗り慣れるとアイドリングからスッとクラッチをつないでも走り始めると思っちゃいますが

こいつはそんなにヤワじゃない。仕切り直して6000回転ぐらいでつないでやると思った

以上に太いトルクです。このバイク「下がない(低速トルクがない)」という人もいますが

僕は「かなりトルクフルだな」と思いました。

確かに数字の上では「低速トルクはない」のかも知れませんが「だったら回せよ!!」

と言うことです。低回転で乗らなくちゃいけないって法はありません。

最近のバイクにはないきつい前傾姿勢で走り始め、ふと足をステップに乗せようとすると

そこにステップがない!そうです、バックステップなのでただ足を引き上げればいいって

もんじゃないんです。しっかりステップに足を乗せ、ギアを2速に上げてから少し引っ

張ってみようと思い勢いよくアクセルを開けたとたん、びっくりするようなトルク感で

蹴飛ばされたように加速し、フロントが浮き上がります。あわてて3速に上げるも、同じ

様にアクセルを開けるとこれまたフロントアップ。速い速い!!

トルクは8500回転、パワーは9000回転でピークを迎えるようですが、とてもじゃ無い

けれど9000回転なんて怖くて回せないって位のパワー感です。

友人は「ちょっと峠に行ってこい」と言いましたが、怖くてそれどころじゃありません。

前傾がきつく眼鏡を通して前を見ることが出来ません。眼鏡を有効にしようと顔を上げる

とおそらくとんでもなく不格好で乗っているのだろう事が想像できるので、バイク乗りの

意地としてしっかりと眼鏡を通さず道路を見据えるわけですが、ここ最近のバイクにない

前傾姿勢とステップの高さに加え何ともパワフルでピーキーなエンジン。

最初はかなり手こずりました。正直に言います。怖いんです。怖かったんです!!

バイクの走りたいように走らせることが出来ず体はがちがちです。何とか肩の力を

ぬいて思い切り上目遣いにポーズを取ると、段々からだがなれ、昔の感覚が

よみがえって来ました。コーナーを切るときにイン側の肩を入れ、アウト側のステップを

しっかりと踏み込んでバイクのやりたいように任せアクセルでトラクションをかけながら

旋回すると思った通りのラインをトレースします。結構深くバンクしても何処かをする

気配はまるで無し。一体どれほどバンクしたらステップに付いているバンクセンサーに

仕事をさせることが出来るのか?

段々からだがこのバイクになれるにつれ、心の底から楽しさがわき上がってきました。

どういえばいいんでしょう?おそらく最近バイクに乗り始め、そして最近のバイクしか

知らない人にしてみると「やたらと乗りにくいバイク」に思える事でしょう。

乗車姿勢についてもそうですが、エンジンについてもしっかりまわさないとパワーが

でない為、乗りにくいしパワーがないし遅い!と思うかも知れません。

ただ、2サイクルエンジンの特性、このバイクの特性を理解して乗るとこれほど面白くて

速いバイクはそうは無いでしょう。いや、80年代後半から90年代前半にかけては

いくらでもあったけれど、今や絶滅危惧種です。

正直言って、最近の100馬力を越えるリッターマシンよりも遥かに「速い」し「パワフル」

だと感じました。当時の250ccってこんなにすごかったんだと、心から感動。

誰にでも乗れる中低速を重視したエンジン。乗っていても疲れない自然な姿勢。

最近のバイクが重視しているのはそう言うことだと思います。

ハッキリ言いましょう。「そんなの全くつまらない」。いや、本当の楽しさじゃない!

最近のバイクが如何につまらなく下らない物であるのか身をもって分かりました。

いや、いいですよ。アドベンチャーにしろ、或いはネイキッドでもストリートファイターでも

好きにしてください。

今回久し振りにこういった個性のあるバイクに乗って改めて思ったことがあります。

「乗っていて楽しい」には2種類有る。と。

言うなれば「乗る(移動する)」のが快適で楽しいバイクと、とても高性能で移動すること

よりもそのバイクの性能を使い切ったり乗りこなす事が出来るようになり、それが手の

うちに入るまでに至ったときに感じる「乗っていて楽しい」の2種類。

僕はどちらも否定しないし、どちらも正解だと思います。ただ、今の人たちは昔のそれ、

ここで言う後者のそれを「知らない」のがもったいないというか、可哀想だと思います。

実は今回3MAの事について書こうと思ったとき、やはり書きたいのは「唯一無地の

2サイクル後方排気」マシンであることや、その当時のバイクの事色々についてだった

のです。でもそんなことより「やっぱりバイクってこうだよな!」と言う感覚がぬぐえず

具体的にそのメカニズムや走りについてうんちくを垂れるより「昔のバイクは今のバイク

と全然違う」「昔のバイクは本当に面白い」というのを声高に伝えたくてこんな文章に

なってしまいました。昔のバイクは本当に別物なんです。面白いんです。

最近の200馬力有るバイクに乗るより昔の45馬力しかない(いや45馬力もあるか?)

2サイクルのバイクに乗ってみてください。アドレナリンの出方が違います。

俺は普段200馬力を手の内に入れていると豪語しているあなた。とにかく昔の2スト

レーサーに乗ってみてください。おそらく乗りこなせないと思います。

どこからでもアクセルをひねればパワーを引き出せるハイパワーリッターバイクと違い

8000回転から9500回転辺りをキープして走らなければいけない古の2ストレーサー。

しかしそのパワーに入れ続ける運転技術さえあれば、200馬力オーバーのリッター

バイクにずっと自分のテールランプを見せつける事も可能なバイク。

ハッキリ言って昔の2ストレーサーに乗るのと最近のハイパワーリッターバイクに乗る

のと「バイクに乗る」という意味その物が違うように思います。

そこでいきなり話をハーレーに持って行きますが、日本のバイクを腑抜けにしたのは

ハーレーの責任が大きいように思います。

ハーレーはいわば移動するための「馬」であり、「バイク」ではないように思います。

乗りこなす感覚もバイクより馬に近い。

そんなハーレーが売れに売れたもんだから、日本のメーカーの方達はそれを追いかけ

今まで自分たちが精魂込めて作り上げたバイク達に泥をかけ、見捨てた。

もし日本のバイクメーカーの技術者達、更に言うなら日本のバイク乗りの方達に少し

でもプライドという物が有れば、日本独特の鋭さ、日本刀のようなそれを捨て、「誰でも

乗れる府抜けたバイク」を作り続けるはずがない。そう言うバイクを求め続けるはずが

ない。今からTZRのようなバイクを作ったとしても、乗れる人がいないでしょう。

ですからおそらく作っても売れない。このままどんどん個性のない、或いは「個性」と

言っても機能や性能的な物ではなく外見や「コンピューターによる制御技術」みたいな

物に特化した製品ばかりが生まれてくるのでしょう。

僕はそれが本当に残念でならないし、そう言う素晴らしいバイクを知ることが出来ない

今のバイク乗りの方々が可哀想でならない。

ここ10年で発売されたどのバイクに乗っても釈然としなかった理由が分かりました。

今のバイクは「乗りやすい」けれど「つまらない」んです。

最近スクランブラーなる物が流行っておりますが、これもまたしかり。オールマイティー化

乗りやすい方向でちょっとだけ個性を出したに過ぎないまやかしの製品。

今更愚痴ったところでどうなるわけでもありませんからこれは単なる僕の愚痴だと

思ってください。

僕はハーレーに憧れ続け、社会人になってやっと手に入れた愛車に30年近く乗り続け

ています。このバイクだけは手放すまいと思っていましたが、正直言って今はハーレー

等どうでもいいと言う気分です。

ハーレーなら死なない(危険なほどにバンク角がないのでコーナーの手前では思いきり

ブレーキングしなければならないし、無茶するバイクじゃないから)と思って乗り続けて

いるわけですが、何となく今の僕にはその言い訳で自分を納得させることは難しそう

です。ただ、新しい900RSやら刀に乗っても所詮は今のバイク。きっと昔のバイクとは

別物になっていることでしょう。

本当にスタントマンがやっているアクションとCGで作ったアクションのようなもの。

CGのそれの方が見ていてよりリアルで迫力があるかも知れませんが、所詮はフェイク

です。だったら僕の古いハーレーを愛でる方が良いのかも知れません。