ポルシェとハーレーに見るジレンマと開き直り

                                                      
さていきなりですが、僕は内燃機が大好きです。そして内燃機が着いた乗り物が大好き

なんです。そんなわけで「電動」の物は好きじゃありません。電動自転車、電動車椅子、

もっと言えば電気剃刀もIHクッキングプレートも嫌い!電動で許せるのは電動工具と電動

コケシ(!!)位でしょうか。

しかしなんと言うことでしょう、僕の大好きな内燃機にまで電動化の波が押し寄せてます。

最近ハイブリッドカーやら電気自動車なる物が台頭し、ホンダなどは「将来的には全部

電気にしちゃうもんね」という発表までしています。嘆かわしーぃぃ!!。

とも言ってられない状況な訳ですね。で、すぐに電動化できる訳じゃないからまずは

内燃機に対して排出ガスだとか何とかいろんな制約をかけてきたわけです。

そこで一番困っちゃった会社というのが題にもあるポルシェとハーレーなんじゃないかと。

厳密には違いますが、ポルシェとハーレーというのはある意味「時代遅れな形式の

内燃機」を積んでました。ポルシェはSOHC2バルブの空冷水平対向6気筒。ハーレーは

ビッグエンドを共有するOHV空冷狭角45度V型2気筒。これ、例えば水冷とかDOHCとか

或いは気筒数や型式(直列やV型など)において「不利」な事もあるわけです。燃費やら

環境性能やらを鑑みるとね。でもでもポルシェもハーレーも「それしかない(注1)。

じゃぁだめなメーカーなのかと言えば、ポルシェについては性能的に有利とされている

内燃機を相手にしてもまったく引けを取らないどころか凌駕する性能を有していたし

ハーレーについては「それにしか出せない味」を持っていました。それ故に絶対的な

「ファン」がついていたわけです。

しかし時代の流れは残酷で、燃費を良くしろだとか、排出ガスを綺麗にしろだとか、音を

静かにしろだとかいろいろな規制をされていくわけですね。元々ポルシェもハーレーも

燃費や排出ガスの綺麗さで勝負なんてしていません。またそれを選ぶユーザー(というか

あえて”オーナーやファン”と言った方がいいかも)も、そんな物よりもポルシェやハーレー

においてのみ味わえる物を求めていたんです。

規制がなければ「我々は我々のファンにのみ製品を提供していくんだ」というスタンスを

取ることも一案だったかも知れませんが、「規制」という縛りをかけられた以上、それに

対応しなければ製品を作ることは出来ません。で、規制に対応しようとすると自分たちの

アイデンティティーと言ってもいい内燃機の型式は「不利」な訳です。

普通だったら「じゃ、空冷やめて水冷にしちゃおうか」とか「6気筒じゃなくて3気筒でいい

よね」とかになるわけですが、ポルシェとハーレーについてはそうはいきません。

何しろ「ポルシェと言えばRRの空冷フラットシックス」。「ハーレーと言えば空冷45度V型

2気筒で3拍子を刻むかのようなあの音」な訳です。

相当悩み、苦労したと思いますよ。どうしたもんかと。だってポルシェが「燃費と環境を

考えて1800cc水冷3気筒のニューモデルをリリース」とか、ハーレーが「パワーと高回転

のフィールを求めた600cc水冷4気筒」なんてのを出してもそれまでポルシェやハーレー

を好んでいた人からすれば「はぁ?」ってなる訳ですよ。ブルゾンちえみが藤原史織に

なるようなもんですよ。「はぁ?」ってなるでしょ?「お前芸人だから許されてたけど、女優

とかモデルだとかで何とかなる顔とスタイルじゃないぞ(スイマセン)」ってなるでしょ。

芸人として認められていたからと言って女優としてそのままの評価を引き継げるわけでは

ないどころかマイナスのスタートになるわけです。ポルシェやハーレーもしかり。

「それだったら他のメーカーのでもいいわ」ってなるわけです。

このままのエンジン形式では時代の流れに取り残される、と言うか淘汰される。でも

これを捨てたらファンの人も去ってしまうかも知れない。・・・怖かったでしょう、悩んで

悩んで悩み抜いたでしょう。でもどうしようもないんです。

でどうしたかというと、ファンの顔色をうかがうようにちょっとだけ昔のアイデンティティーを

残しつつ「ね、ここだけは変えないから、ね、ね、いいでしょ?」てきにアップデートした

訳です。それでもファンは相当がっかりしましたよ。例えば水平対向6気筒は残しつつ

水冷のDOHCにしちゃったり、エンジンの型はそのままだけどバランサー入れてことごとく

振動を無くしちゃったり。結果として売上げは伸び、会社の経営も安定したことでしょう。

ではこれは「その変更がファンに受け入れられたのか」と問われれば、僕は「違う」と思い

ます。ポルシェしかりハーレーしかり、水冷DOHCになっても「ポルシェはポルシェ」だなと

感じますし、バランサーがついてもハーレーは「やっぱりハーレーの乗り味だ」と感じます。

でも元々を知っている、或いはそれ以前の物が「好き」だった人からすると致命的に

違う物になってます。ミニとミニクーパー、ビートルとニュービートルを見ていただければ

分かると思いますが「オマージュ品」でありこそすれ「別物」であるのは明らかだと

思います。「そんなこと言ったって売れてるんだから受け入れられてるんじゃないの?」

と思うでしょ。そうです、受け入れられたんです。「新しいユーザー」に。

古のポルシェやハーレーを実際に知っている(運転したことがある、乗ったことがある)と

言う人というのはドンドン減っていると思います。それ故に古の物の良さを理解し、欲する

人というのもドンドン減っている。だから「別物になっている」事に気がつく人がいない

(若しくは減ってきている)訳です。それ故「別物になった」事に気がつかず「進化した」

と勘違いしたユーザーが飛びついて売れ始め、当然昔のネガな部分(そしてそれこそが

味だった部分)が薄まっていることによりそれまでの物と比べられることなく「いいところ

のみを評価された」結果だと思います。実はポルシェで言えば996、ハーレーでは

エボリューションになった頃が「変化の第1時期」なのではないかと思いますが、その当初

はまだ「それまでの物を知っている人」が多数いたため評価は割れ、販売は苦戦した

部分もあると思います。どちらも「こんな物ポルシェじゃねぇ。ポルシェは993までだな」

とか「ハーレーはショベルまでで終わりだよ。エボリューション乗るなら国産でいいじゃん」

とか言われていたわけですから。そんな時代を経て今やポルシェはカイエンというSUVを

やケイマンという「ポルシェファン」ではなくて「万人」を対象とした製品を平気でリリース

するようになりました。そこ行くとまだハーレーの方が頑張っている気はしますね。

ストリートツインを出したときの世間の反応はポルシェが924を出したときの世間の反応

に似ているのではないかと思うのですが、そう考えると今ストリートツインを出せば

もっと売れたかも知れません。

さっきも書いたとおり今ポルシェやハーレーが売れているのは「これまでのユーザーに

その変革が受け入れれたから」ではなくて「ユーザー層が変わった」からに他ならない

と思いますが、いずれにしろ売上げが安定してきた両者はこのところ開き直ってやりたい

放題な気がします。でもしょうがないんですよね。生き残るためには。

でぼく、この2者はいま大きく変革を遂げるチャンスなんじゃないかと思います。

今までのファンの顔色をうかがうことなくネームバリューだけで勝負できるから。

・・・なんて思っていたらハーレーが電動バイクを出しました。スゲーカッコイイ!!

でもですね、僕は「それを買うならハーレーじゃなくていいんじゃない?」と思います。

これからは製品のシステムというか型式というか、例えばエンジンで言えば水平対向

だとか直列だとか、DOHCだとかOHVだとかの違いによる「味」の違いを楽しむことは

出来なくなっていきます。そうなると今度は「利便性」だとか「環境性能」だとかが

勝負所になるのでしょう。さて、そんな時代が目の前に迫っていますが、それぞれの

メーカーの人たちは「自分たちが残る意義」を見いだせるのでしょうか?

古のポルシェが空冷水平対向6気筒を究めたように、ハーレーが(それしか作れなかった

だけかも知れないけれど)OHV空冷V型2気筒に拘ったように。

これまでのように「これじゃなければダメ」という「カラー」を出すことをしずらくなればなる

ほどどうやって勝ち残るかを考えるのが大変になるのじゃないかと思います。