和算入門(3)


寛永4(1627)、京都の嵯峨にいた吉田光由(1598~1672)が、後世に江戸のベストセラーの異名をとることになる『塵劫記』を板行したことはすでに述べました。では、なぜそのような評判を得ることになったのでしょうか。その理由は二つの視点から指摘することができると思います。一つは、遊戯問題がたくさん載っていて飽きることなく読めたこと、二つ目は初等数学の問題が豊富に収録されていて、巻頭から学習していけばそれなりの数学力が身に付く算術独習の良書であったことが指摘できましょう。「和算入門(2)」で述べましたように、漢字平仮名文字で書かれていたことも大衆の支持を得た理由でしょう。

 

 

 

和算の問題に「すぎ算」と称するものがあります。これの原初的な問題は, 1+2+3+, ---, +nまでの自然数の和を求めることでしょう。自然数の和をSnとすればnまでの値が、

 

 

とする公式で求められることはよく知られていました。この公式は古代中国の数学でも早くから使われていました。『塵劫記』ではこの種の問題を「すぎ算積のこと」と呼んでいて、第一問では、俵が1俵、2俵、3俵と積まれていき、最下段が13俵のときの俵の総数を求めよ、としています。面白いことに、問題の説明は一切なく、俵が積まれている図と「法に」と言う計算法が書かれているだけです。計算法は上記の式を使っていますが、そろばんを使って計算するためにちょっとだけ入り組んでいます。

 

2問は上の写真中の図のような問題になります。ここでは上段の俵の数8俵と下段の俵の数18俵が与えられて、総数が143俵とあります。計算法はつぎの様な式になっています。上の写真 『塵劫記』のすぎ算積もり問題の数をa、下段の数をbとすれば、総数Sは、

 

 

で求まる、と言っているのです。ごく普通考えれば、18俵までの俵の総数を求めてから、上段一つ手前の7俵までの総数を引くのでしょうが、吉田はあえて上段の俵の数を使って計算させているのです。ここに吉田の工夫が見えていて面白いと思います。

 

  (以下、次号)