今回も引き続き『塵劫記』の「好み」の問題を取り上げてみましょう。
第2問は「円截積」問題です。以下( )は筆者による補足です。【問題】今唐木有。長三間に本(もと)口まわり五尺、すえ口まわり二尺五寸あり。此代銀拾枚也。三人としてかい(買)申時、三人へ等分にきりてとる(切りて取る)時には、本口なにほとの長さ、すえより長さなにほととるそと問。
与えられた円錐台を等積な円錐台に三等分する問題です。この問題は後に楕円問題へと発展することになります。
第3問は「二組四色」問題。以下、文字数を節約するためにインド・アラビア数字で表します。【問題】松木80本、檜木50本、此銀合2貫790目。松木120本、杉木40本、此銀合2貫322匁、まつ(松)右のね(値)と同前。杉木90本、栗木150本、此銀合1貫932匁、すぎ右のねと同前。栗木120本、檜木7本、此銀合419匁、くり右のねと同前。右檜木、松、杉、栗おの々一本に付何程そ。
問題は松、檜、杉、栗のそれぞれの単価をx、y、z、wとしたときの連立方程式を解くことになります。因みに、文中の目は匁(もんめ)の別称です。材木の値段に銀が使われていますが、銀は近畿圏を中心に流通した秤量貨幣です。江戸は小判や銭など鋳貨が主流でした。
第12問も「円截積」ですが、第2問とは異なります。【問題】さしわたし100間の屋しきを3人へわりて渡す時、1人は2900坪、1人は2500坪、1人は2500坪。北より矢のひろさ、弦の長さはなにほとそ。又、中の矢のひろさ、弦の長さおの々なにほとと問。
さて、屋敷の総面積が7900坪、直径は100間ですから、円周率は3.16であることが分かります。問題の弓形の面積をS、弦をa、矢をhとすれば、弓形の面積Sは、
(1)
で求める式が古代中国で知られていました。また、弦aについても、円の直径をdとして、
h) (2)
で求める式がありました。吉田はこれら(1)と(2)の式を使って問題を解かせようとしたのでしょうか。和算における難問化のはじまりと言えます。
(以下、次号)